中途採用の給与の決め方
中途採用の給与決めはデリケートな問題です。一方では自社の給与体や採用予算、既存社員とのバランスを、他方では候補者の現状・希望年収や市場の相場観、他社のオファーを考慮しなければいけません。
優秀な人材を獲得し、定着させるためには適正なオファーが必須です。
そこで今回は「中途採用の適正な報酬の決め方」について考えてみたいと思います。
リサーチ・情報収集
まず最初にすべきはリサーチです。どのような課題であれ、適切な情報やデータがなければよい解決策を導くことはできません。中途採用の給与決めにおいても同様です。
確認・整理すべき点は次の7つです。
以下一つずつ解説していきます。
1.採用予算
中途採用者の年収を決める大前提となるのが採用予算です。採用にかかるコストを差し引き、どのくらい捻出できるのかを現実的に把握します。
人事部長や経理財務部に以下のような点を確認しましょう。
- 今年の新規採用人数は何人か?
- 特に採用が多い・少ない時期はあるか?
- 求人広告の掲載費用はどのくらいか?
- 人材紹介料や採用支援料など社外への支払いはあるか?
- 採用にかかる人件費は?(採用担当者や人事マネージャーの給与など)
- 研修やオンボーディングの費用はいくらくらいかかるのか?
- 面接費用は発生するか?(面接のための旅費補助など)
- リファレンスチェック費用はかかるか?
- PRのためにブランデッドコンテンツを制作する必要はあるか?(ビデオ、チラシ、バナー、ソーシャルメディアなど)
2.雇用形態
次に雇用形態を考えます。
給与相場は正社員、契約社員、派遣社員といった雇用形態によって異なります。社会保険や退職金、有給や福利厚生などの費用も違うので、給与として用意できる金額が変わってくるでしょう。フリーランスや業務委託というやり方もあります。
派遣・契約社員の方が人材探しが楽な場合は「時間」というコストも変わってきます。採用リードタイムが短いほどコストを圧縮できるので、予算が厳しい場合は「探しやすさ」も考慮するのも一案です。
3.経験・学歴・資格
候補者の経験と報酬の期待値には明確な相関関係があります。言うまでもなく、求める経験値や学歴・資格が高いほど、高額な給与を用意しなければいけません。
担当してもらう業務に対して最低限必要な学歴・経験・資格はどのようなものなのか、採用したい候補者の経験や学歴は担当してもらう業務に直接関係のあるものなのか、直接関係がない場合はそうした経験や学歴をどう評価するのかを吟味しましょう。
Morgan McKinleyの年収ガイドでは、年収を検索すると経験値が高い場合、中程度の場合、低い場合の年収目安も確認することができますので是非ご活用ください。
4.人材市場における需給バランス
人材市場において希少なスキルや、多くの企業が求めているスキルは基本的に市場価値が上昇していきます。需要が供給を上回る、即ち売り手市場の分野で確実に有能な人材を採用するためには相応の待遇を用意する覚悟を決めなくてはいけません。
スキルの需要にもトレンドがありますので、中途採用ではこのような点にも注目すべきでしょう。
5.業界平均
年収水準は業界によっても異なります。他業界からの転職者を受け入れる場合は特に注意が必要です。会社の規模などによっても差があるので事前にきちんと調べるべきです。
LinkedIn、Glassdoor、Salary.com、PayScaleなどでも給与情報が手に入りますが、一般的に無料リソースでは国・地域や業界、事業規模まで深掘りすることはできないのであくまで目安として利用しましょう。
より正確なデータを得るには業界団体などが会員向けに有料/無料で公開している給与レポートを活用するのがおすすめです。母体が絞られているので高精度の情報を得られる可能性が高いです。
Morgan McKinleyの年収ガイドでも国・業界・職種別のデータを公開しています。
6.勤務地
勤務地も重要なファクターです。
物価は場所によって違います。一般には大都市の労働者の方が給与が高い傾向にあります(世界労働機関の報告書では、地方の労働者の時給は都市部に比べて24%低いそうです)が、都市や地域によって違いますので想定している勤務地の生活コストや平均給与を調べておきましょう。
7.日系・外資系の違い
最後に、外資系企業と日系企業の給与体系の違いも知っておく必要がります。日本では、同じ業界・職種でも外資系企業の方が日系企業に比べて給与水準が高いです。
外資系企業からの転職者を迎える日系企業は、高額な年収に驚いて交渉を放棄しないようにしましょう。自社の給与体系はどんな価値観に基づいて決まっているのか、金銭以外のどんな「価値」を提供できるかをよく考えてみてください。同時に、自社の給与体系が時代に合わなくなっている場合はその見直しも急務でしょう。
日系企業から人材を迎える外資系企業は、候補者の今の年収が低いからと足元を見てはいけません。日本型の終身雇用制度では年収が低くても年金や退職金制度が充実している場合が多く、また勤続年数に応じて給与が着実に上がっていくという安心感もあります。解雇になるリスクが低いのも一つの「価値」です。こうした安心を失う分をきちんと上乗せし、フェアな報酬をオファーすることが信頼感につながります。
ペイ・フィロソフィーの策定
ペイ・フィロソフィー(Pay Philisophy)とは、給与・報酬を決定する指針となる考え方です。ケースバイケースでぶれないよう、経営理念や企業文化、成長目標など会社の価値観を反映したものを策定することが大切です。
「今後の成長のために一流の人材の確保を最優先し、必ず市場平均を上回るオファーを出す」「競合を上回る給与は出さない代わりに、社員の教育やスキルアップに投資する」など、ガイドラインを明確にしておくと一貫性・公平性を維持し、会社の理念や方針を内外に示すことができます。
給与制度の確立
給与制度とは、あらゆるジョブを等級やグループに分類し、それぞれに給与レンジを割り当てたもので、社内の公平性・透明性確保に欠かせません。
- ポジションの分類:スキルや仕事内容によってポジションをグレードやグループに分類します。
- 給与レンジの設定:各等級やグループの給与レンジを決めます(市場相場に配慮すること)。
- 昇給の仕組みの決定:どのように昇給させるのかを決めます。
- 定期的に見直します。
中途採用においては、候補者がどの等級・グレードに相当するのかを的確に評価することも大切です。以下の表が役に立ちます:
福利厚生も含めた「報酬パッケージ」で考える
オファーというとどうしても給与に気を取られてしまいますが、福利厚生で差別化を図ることも可能です。
2023年のギャラップ社の世論調査によると、若い労働者ほど給与の額面よりも学習やキャリアアップの機会を重視するそうです。
現代の日本の働き手は次のような福利厚生に魅力を感じています:
- 住宅補助
- 法定以上の有給休暇、特別休暇(社員の取得実績のアピールしましょう)
- 資格取得支援制度
- 財形貯蓄制度
- 法定外の健康診断(人間ドッグなど)
- 業績賞与(パフォーマンスボーナス)
- 子供の看護休暇、保育所などの子育て支援
- フレックス勤務制度や在宅勤務制度
この他にも、肩書・タイトルや将来のキャリアパスや昇給・昇格の見込み、海外勤務のチャンス、ワークライフバランスのよさなどでも優秀な人材を惹きつけることができます。
給与のみに捉われず、総合的なパッケージで勝負するという発想を忘れないようにしましょう。
既存社員との公平性・公正性の確保
中途採用のオファーにおいては既存社員とのバランスも非常に大切です。
次のような点を確認しましょう。
- 現状の給与制度は市場平均と大きく乖離していないか?
- 社内で同じ業務を遂行している社員の給与はどれくらいか?
- その社員のスキルや能力の程度は?
社内で不公平感が広がると従業員エンゲージメントが下がります。新たな人材を確保できても、他の社員の離職を招いてしまっては意味がありません。
「候補者も既存社員も納得して気持ちよくスタートを切れる金額」を見極め、ステイクホルダーを上手にまとめられるかが人事の腕の見せ所です。
優秀な人材を適正な給与で
いかがでしたでしょうか。中途採用の給与決めですが、上記のような点に配慮すれば、優秀な人材の獲得に一歩近づけるはずです。
Morgan McKinleyの年収ガイド(日本版)で検索しきれない
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