アンコンシャス・バイアスに負けない採用
「その仕事に最も相応しい人材を採用するために、候補者の資質や能力に基づいて公正に合否を判断している」―採用に関わるからにはこのような自負があるのは当然です。
ですが自分では客観的・論理的に判断していると思っていても人間である以上、知らず知らずのうちに認知のひずみが生じている可能性があります。
「無意識の思い込み?そんなものはないね。…少なくとも、意識している範囲では」
アンコンシャス・バイアスとは?
アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)とは無意識の思い込みのことです。私たちの脳は情報が足りなくても瞬時に「きっとこうだろう」という判断や評価をする働きを持っています。この判断は自分の経験や文化・社会通念に基づいているため、偏っていたり、誤っていたりすることがあります。
バイアスは人種や宗教などわかりやすいものに限りません。私は大丈夫、と思っている方も是非最後までお読みください。
なぜアンコンシャス・バイアスがいけないのか?
では、採用におけるアンコンシャス・バイアスはどのような弊害をもたらすのでしょうか?
まず、アンコンシャス・バイアスを排除する努力をせずに採用したチームは多様性が低い傾向があるそうです。ダイバーシティが高いチームの方が優れたパフォーマンスを出すという研究が相次いで発表されていることを踏まえて考えれば、アンコンシャス・バイアスを放置することは会社の不利益になります。
”アンコンシャス・バイアスは多様性を目指す企業の障害となり得る。採用の段階でも軽視してはいけない”
Pragya Agarwal博士
またアンコンシャス・バイアスによって目が曇るとマッチングがうまく行かず、離職率の悪化にもつながります。採用のやり直しにかかる平均コストはそのポジションの年収の約2倍です。更にステレオタイプ、性別、容姿などに基づく採用はそもそも違法であり、訴訟のリスクもあります。
幸いアンコンシャス・バイアスは克服することができます(「克服方法」へジャンプ)。ですがその前に、採用の場面でよくあるアンコンシャス・バイアスをおさらいしておきましょう。皆さんは、こんな経験はありませんか?
採用におけるアンコンシャス・バイアスの具体例
1. 確証バイアス / Confirmation Bias
“確証バイアスが厄介な理由はたくさんあるが、最大の問題は的確な判断ができなくなることだ”
Harvard Business School
確証バイアスとは、自分の考えや仮説に合致する証拠集めに専心し、自分にとって都合の悪い情報を無視してしまうものです。
採用面接における確証バイアスの例:
経歴を見て「正に求めていた人物だ!」と思った候補者の面接では、その思い込みを肯定する情報を探してしまいがちです。懸念事項には目をつぶり、「やっぱり思った通りの人材だった」と結論づけてしまうのです。
逆に「絶対ダメだろう」という先入観をもって臨むと短所ばかり目についてしまう、ネガティブな確証バイアスもあります。
2. 同調バイアス / Conformity Bias
同調バイアスとは、無意識に周りに合わせようとする心の働きです。自分ではしっかり考えているつもりでも、人間には集団に追随する習性があるのです。
採用面接における同調バイアスの例
複数の面接官が同席するパネルインタビューを実施し、自分だけ受けた印象が皆と違ったとします。そんなとき、つい「みんながそういうなら私の思い過ごしかな?」と自分の考えを上書きしたことはありませんか。
印象というモヤモヤしたものの正体をうまく説明できる根拠がない場合、特に流されやすくなるので要注意です。
3. ジェンダーバイアス / Gender Bias
言うまでもなく、男性・女性といった性別に基づく固定観念が作用し、あるジェンダーの候補者を無意識に優遇・冷遇してしまうというものです。非常に認知度が高いにも関わらず未だに排除が難しい、非常に強固なバイアスです。
採用面接におけるジェンダーバイアスの例
伝統的に女性が多い部署(人事、総務など)で知らず知らずのうちに女性の候補者を優先してしまったり、前任者が男性だったから「なんとなく」男性の方が合いそう、と思い込んでしまうのはジェンダーバイアスです。
自分が共感しやすいジェンダーを贔屓してしまう、ということもあります。
4. ハロー効果 / Halo Effect
ハロー効果(Halo Effect)とは、一つの優れた特徴に基づいて全体の印象を決めてしまうことです。haloとはキリスト教の聖人の頭部に描かれる後光のことで、後光が射しているとその人の一挙手一投足が尊く有難く見える心理を表現しています。
採用面接におけるハロー効果の例
「東大卒」「XX社の出身」といったブランドだけで優秀な人材に違いないと思い込んでいませんか。或いはちょっと気になる点があったのに、「でもあの人は東大卒だから、きっと大丈夫だろう」と懸念をやり過ごしていませんか。
5. 「悪魔の角」効果 / Horns Effect
「悪魔の角」効果はハロー効果の逆バージョンです。一つの望ましくない特徴(=悪魔のツノ)につられて、全てが悪く見えてしまうバイアスです。
採用面接における「悪魔の角」効果の例
ジョブホッパーだから、短大卒だから、といった理由で経験・スキルや将来のポテンシャルを検討することなく、候補者を切り捨ててしまうケースが考えられます。
人事考課やパフォーマンス・レビューにおいても注意が必要です。
6. 親近感バイアス / Affinity Bias
人間は自分に似た人に親近感を抱き、よい印象を持ちやすいことがわかっています。 これが親近感バイアスです。
採用面接における親近感バイアスの例
趣味や出身校、郷里が同じ候補者と意気投合して肯定的な判断を下した経験はありませんか。また、無意識のうちに自分と考え方が似ている候補者を「優秀」だと結論付けていませんか。
「いいヤツだから」「自分と考え方が似ているから」という理由だけで採用を決めるとチームの多様性が犠牲になり、生産性が低下するリスクがあります。
7. コントラスト効果 / Contrast
コントラスト効果とは、一つ一つの情報を同じ物差しで個別客観的に評価するのではなく、情報同士を比較して判断してしまう認知バイアスです。
採用面接におけるコントラスト効果の例
採用活動において特にコントラスト・バイアスがかかりやすいのは履歴書・職務経歴書やレジュメなどの書類選考です。理想的な候補者の履歴書を見た後は、すべて「見劣り」しているように感じる心理などがコントラスト・バイアスに該当します。
優れた候補者のレジュメを見る前後で合格ラインがぶれているため、公正とは言えません。
8. アンカリング効果 / Anchoring
アンカリング効果とは、最初に見た情報によって先入観が生まれ、その後の情報を色眼鏡をかけてしか見られなくなってしまうことです。船が錨(anchor)を下ろすと動けなくなるように、最初の印象に縛られてしまうのです。
採用面接におけるアンカリング効果の例
最初に見た情報、例えば学歴をベース(アンカー)にして「優秀」「優秀でない」を無意識に決めてしまい、その後示された情報を正当に評価できない、といったケースが考えられます。
9. 注意バイアス / Attentional Bias
注意バイアス(Attentional bias)とは、何か一つのことが気になっているために他のことが目に入らない状態です。
採用面接における注意バイアスの例
例えば面接の冒頭で気がついた外見上の特徴(例えばピアスやタトゥー、服装など)に気をとられてしまい、質疑応答の内容をきちんと聞いていない、といったことがあり得ます。
採用においてアンコンシャス・バイアスを克服するためには?
”人間からバイアスを取り除くことは難しい。採用プロセスからバイアスを取り除くことにリソースを費やす方が賢明だ”
Harvard Business Review
無意識に行っていることをやめるのは容易ではありません。ですが人間にはアンコンシャス・バイアスというものがあることを自覚し、克服する努力を重ねることはできます。
ここからは採用プロセスからアンコンシャス・バイアスを排除するための対策をご紹介します。
アウェアネス研修
アンコンシャス・バイアスに打ち克つ第一歩はバイアスを意識化することです。これにはアウェアネス研修が有効です。
バイアスはジョブディスクリプションの作成から書類選考、面接、内定まで、採用プロセスの全ての段階で発生する可能性があります。このため、採用に関わる人全員を対象に採用におけるバイアスとは何か、そしてそれが意思決定にどのように影響するかを理解してもらうべきでしょう。
採用プロセスに関わる一人ひとりが自分の思い込みや偏見に気がつき、自らの行動や判断を積極的に変えていくことが大切です。
求人広告の言葉選びに注意する
近年の研究では、求人広告やジョブディスクリプションの言葉遣いや表現によって男性、または女性の応募者が増えたり、減ったりすることがわかっています。
何気なく使っている形容詞、英語ならば competitive、determined、assertiveといった単語は男性候補者を、 responsible、 connected、dedicatedは女性候補者を多く惹きつけるというのです。
同様の現象が日本語でも起きると考えてよいでしょう。例えば「キャリア志向」「指導力」は男性を、「チームワーク重視」「聞き上手」といった表現は女性を引き寄せている可能性があります。
求人票を各時点で、無意識のバイアスがかかっていないかをよく精査すべきでしょう。
書類選考方法の見直し
人間がバイアスを全く持たずに物事を見るのは難しいため、バイアスの元になりやすい情報を除去するアプローチもあります。
ブライド・レジュメ(またはブラインド・レビュー)と言い、応募書類から写真、性別や生年月日などを消してしまうのです。応募書類の形式を変えてもいいですし、こうした情報を隠すソフトウェアもあります。
より本質的な情報に基づいて書類選考を進めることで固定観念が入り込む隙を排除し、見過ごしていたかもしれない人材を発掘できる可能性があります。
面接形式の標準化
面接の設問や進め方がバラバラだと候補者を公平に比較しづらくなり、結果的にバイアスや主観に左右されやすくなります。面接を標準化することで、バイアスが入り込みにくい仕組みを作ることができます。
予め決めておいた質問に基づいて行う面接をストラクチャード面接と言いますが、ストラクチャード面接はそうでない面接と比べて適切な人材を採用できる確率が2倍になる、という研究もあります。
“場当たり的な面接は効果的ではないという事実を受け入れ、自社に合ったストラクチャード面接が完成するまで試行錯誤や微調整を続けることです”
Irish Bohnet
Morgan McKinleyのアンチバイアスの取り組み
では転職支援、採用支援を本業とするMorgan McKinleyでは、どのような取り組みを行っているのか?その絞り込み、推薦の過程でバイアスがかかることはないのか?ご指摘はごもっともです。
当社では以下のような取り組みを継続的に行っています:
- 全コンサルタントを対象にアンコンシャス・バイアスとコンピテンシー面接についての研修を定期的に実施
- 全コンサルタントを対象にダイバーシティ&インクルージョン(D&I)についての研修を実施。できるだけ幅広い層から候補者を探し、採用企業の多様性推進をサポートしています
- D&I戦略について、専門家から助言を仰いでいます
適切な人材が見つからず採用に苦戦されている企業の方、多様な人材が活躍する職場作りを進めたいとお考えの方は是非、Morgan McKinley にご相談ください。専門的な研修を受けたコンサルタントが採用をサポートさせていただきます。