優秀な人材がいない!と嘆いている企業様へ
競争が厳しいビジネスの世界において生き残るためには、優秀な人材が必要であることは言うまでもないでしょう。しかし、「優秀な人材」は一体どこにいるのでしょうか。
優秀な人とは「MARCH以上の大学を出ている30歳前後の男性で、日商簿記2級以上の資格を持っていて、米国会計基準の知識があって、できれば英語もできて、競合他社で経理財務部門の経験を積んでいる人」でしょうか?
確かにそんな人材がいたら期待をかけてみたくなりますよね。求人票というのも、概してこのように業務を行うために必要と思われる知識や経験年数を列記したものです。しかしアメリカで2011年に行われた調査では、採用担当者の71%がIQよりもEQ(心の知能指数)を重視すると答えています。(※英文記事のみ)知識や知性よりも、他人の感情を受け止めたり、自分の感情をコントロールする、といった能力の方が大事であると考えられています。
もちろん、業務を行うためにはある程度の知識や経験は必要でしょう。しかし、本当に貴重な人材というのは会社の風土にマッチし、新しい業務や課題にも前向きに取り組める人です。
重視すべきは「ポテンシャル」
採用に関わってきて私が感じていることは、「人柄がとにかく大事」ということです。そうはいってもスキルがないと始まらない、と思われるかもしれませんがむしろ逆です。スキルは身に着けることができますが、人柄や性格はそう簡単には変えられないため、より重要視されています。
EQの概念を初めて提唱したのはハーバード大学のダニエル・ゴールマン (Daniel Goleman)でした。彼は次のように述べています。
“In a study of skills that distinguish star performers in every field from entry-level jobs to executive positions, the single most important factor was not IQ, advanced degrees, or technical experience, it was EI (Emotional Intelligence). Of the competencies required for excellent performance in the job studies, 67% were emotional competencies.”
「新卒から経営幹部まであらゆる分野において、エース級の人材が特に秀でているスキルについてを調べたところ、最も重要だったのはIQでも一流大学の学歴でも、技術的な経験でもなく、EI(Emotional Intelligence/心の知能指数)であった。調査した仕事において、卓越したパフォーマンスを出すために必要な能力のうち、67%が感情に関わるものだった。」
※日本語ではIQとの対比を明確にするためか「EQ」という表現が定着していますが、英語圏ではEIといいます。
アメリカで5,247人の採用担当者を3年間かけて追跡した研究では、採用した人材が定着しない原因はスキル不足ではなく、EQ不足であることがわかっています。(※英文記事のみ)この調査では、入社から18か月以内に離職した社員についてその原因を聞いたところ、フィードバックを受け入れられない(26%)、感情の理解やコントロールができない(23%)、いい仕事をしたいという意欲がない(17%)、気質が担当業務に向いていない(15%)という結果でした。技術的なスキルが不足しているから、というケースはわずか11%でした。
アイコンタクトが少ない、厳しい質問をすると感情的になる、冗談が通じないなどの傾向が気になったら要注意です。採用で最も致命的なのは、「ぴったりの経験を持った人材を探さないといけない」という思い込みです。マネージャーとして経験を積んでいくうちに、コミュニケーションや対人能力、EQや考え方といったソフト面の方が大切であることに気が付かれると思います。これが「ポテンシャルが大事」という所以です。
面接の質疑応答を見直す
優秀な人材(の原石)を探すためには、今までと同じ面接手法ではだめです。将来の目標や考え方を問う質問を練り上げ、回答を評価する方法を考えなくてはいけません。5年後・10年後どうなっていたいか、なぜこの会社で働きたいのか、周りと意見が食い違ったときにどうするか、といった質問は候補者の人柄が出ますし、長期的に会社に貢献してくれそうな人材かを見極めるのに有効です。
また、面接での「双方向的の意思疎通」を意識することも大切です。長く勤めてくれる人材を採用するには、候補者にも会社の風土や雰囲気について説明することが大切です。チームや会社をイメージしやすいようにできるだけ具体的に、正直に話すのがいいでしょう。自分に合いそうな会社か、候補者自身も判断しやすいでしょうし、候補者の反応を観察すれば、その人にとって何が大事なのかが見えてくるはずです。
第一印象で判断しない
「第一印象が9割」などとよく耳にしますが、優秀な人材がいないと嘆いている企業様程、できる限り丁寧にかつ慎重に選考をされてみてはいかがでしょうか。お客様と接する営業職などを除いては、外見や身なり、履歴書に書かれた学歴から更に踏み込んで、その人の内に秘めた素質を理解し、チームとのケミストリーを見極めるための工夫が求められます。
アメリカの人事エキスパート、Carlie Smithの言葉を借りれば、
“The bottom line is that if physical attractiveness is one of the primary drivers of your hiring decisions, then you’re probably overlooking your top candidates’ fundamental, intrinsic qualities — you know, the actual skills, capabilities, and personality types that more significantly indicate long-term success. And if you’re a recruiter that is looking beyond physical attractiveness, then I’m sure you have found (as I have), that in hiring, all that glitters is not gold.”
書類上はパーフェクトでなくても、情熱ややる気、目標意識やチームとのフィット感が高い人材の方が、採用後に輝く可能性が高いのです。会社に勢いをもたらし、ビジネスの成長に必要な前向きな雰囲気や安定感を与えてくれる「優秀な人材」は、こうした候補者です。
これまで担当してきた仕事や業務において、パーフェクトな候補者が最良の人材とは限りません。書類上は20年の経験があっても、実際は1年目に身に着けたことを20回繰り返しこなしてきただけ、という場合もあります。長い目で見ればやる気のない経験者よりも、エネルギッシュな新人の方が会社に還元してくれるものが多いはずです。
その上日本では少子高齢化で人手不足が深刻化しており、人材の確保が多くの企業で急務になっています。採用で苦戦されている方は是非この機会に、募集要件や書類選考・面接の仕方を考え直してみてはいかがでしょうか。意外なところから逸材が見つかるかもしれませんよ。