人事×AI:海外事例の紹介
誰を採用するか?従業員は心身ともに健康か?現状に満足しているか? そんなことを決めてくれるロボットがいるのでしょうか?今回は最先端のAIアプリケーションや導入事例を具体的にご紹介します。
人工知能(AI)とは機械、特にソフトウェアを用いて人間の知能を再現したものです。1956年にダートマスの熱心な研究グループが初めて「人工知能」という表現を用いて以来、日進月歩で技術開発が進み、いよいよ私たちの仕事や日常生活を大きく変わろうかというところまで来ています。
人事とは、そもそも予測不能で感情的な「人」を司るごく人間的な仕事であるため、AIとの親和性は低いと考えられてきました。果たして機械に、誰を採用するかが決められるのでしょうか?従業員が心身ともに健康で現状に満足しているか、判断できるのでしょうか?
実際のところ、既にタレントアトラクションからオンボーディング、日々の従業員のエクスペリエンス、オフボーディングまで、人事の様々な業務で利用できるAIアプリケーションが登場しています。ここでは、従業員のライフサイクルに沿って、海外で普及している人事のAIアプリケーションをご紹介し、日本でも今後活用できるかどうかを検討してみたいと思います。
1. サーチに使えるAI
インハウス・リクルーターの仕事は、時間も労力もかかるものです。十分なパイプラインを作るためには、膨大な量のレジュメに目を通し、実に多くのメールでのやりとりしなければいけません。こうした作業を助けてくれるのがArya(※英語のみ)というアプリケーションです。転職サイトやネットワーキングサイトを自動でキーワード検索し、相手に合わせたメッセージを送信してくれる優れたツールです。返信率のトラッキングや、顔合わせ・面接のセットアップまでやってくれます。現在このアプリケーションを利用している主だった企業には、レノボ、ダイソンやコーンフェリーなどがあります。
日本での有用性は?
Ayraは転職サイトの登録者数が多く、候補者に事欠かない市場において非常に有益なソリューションであると言えるでしょう。しかし、日本は現在候補者の絶対数が少ない売り手市場で、LinkedInなどのネットワーキングサイトも根付いていないため、このように自動化したアプローチはあまり効果的ではないと考えられます。日本で優秀な人材にリーチするためには、強力なネットワークとデリケートな判断が求められるので、すぐにAIがタレントアトラクション業務を代行することは難しそうです。
2. 面接・選考プロセスを補助するAI
デジタルリクルーターであるVCV(※英語のみ)は、カスタマイズした条件に従って採用の初期プロセスを自動化できるソフトウェアです。受信したレジュメに求人票とマッチするキーワードが含まれているかどうかをチェックした後、スクリーニング用の簡単な動画を作成し、(候補者のリスポンスを録画したもの)採用担当者が次のステップに進めたいと判断した候補者についてはチャットボットが面接日時をセットアップします。ごまかしがきかないよう、リスポンス録画時には顔認証を行い、面接やテスト実施中はアクセスしたサイトを記録する、といった機能もあります。
日本での有用性は?
最近国内で行われた新卒採用イベントにおいて、VCVのCEOであるArik Akverdian氏がデモンストレーションを行い、PWC、ロレアル、ダノンなどの大手企業がどのように日本の新卒採用に同ソフトウェアを活用しているかを紹介しました。新卒はサークルや課外活動を除いて、履歴書にはほとんど差異がないため、VCVのソフトによるシンプルなスクリーニングが効果的であり、何度も対面で面接を実施する手間を省くことができます。候補者のスクリーニングを行うスタッフ数が半分(又は半分以下)に抑えられるそうです。
3. エンプロイー・エンゲージメントに役立つAI
実際のアプリケーションではありませんが、AIを使ってエンプロイー・エンゲージメントを改善した例(※英語のみ)をご紹介します。マイクロソフト社では、社員が時間を有効活用できているかを確認するために、2015年から社員のワークルーム及びオンラインでのアクティビティに関するデータを集めていました。あるグループが仕事の進め方に大きな不満を示した際にそのデータを抽出・分析したところ、このグループはメールのやりとりにかかる時間が異常に長く、10人以上が参加する打ち合わせに出席している時間も社内平均を大きく上回っていることがわかりました。そこでマイクロソフト社は社員の不満を解消するため、このグループがメールにかける時間を制限し、社内会議を短縮・削減することにしました。後の調査によると、対策の導入からほとんど間をおかずに従業員の満足度が改善したそうです。
日本での有用性は?
大企業のみならず、最近は中小企業でも時間やデータをトラッキングするソフトウェアが普及しており、マイクロソフトの事例からもわかる通り、エンプロイー・エンゲージメントに即効性のある解決策が見つかる場合もあります。ただ一つ潜在的な問題があるとすれば、それはデータ収集の必要性と社員のプライバシー保護の兼ね合いでしょう。AIが一般的な時間情報やデータにのみアクセスし、従業員のインターネット閲覧履歴や行動を全て監視できないよう、社内ルールを強化し、必要に応じて労働組合を巻き込んでいかなければいけません。こうしたソフトウェアに警戒感を持つ社員がいるのは当然であるといえます。
4. C&BにおけるAI
ダイムラー、マクドナルド、マイクロソフトなどでは、特に営業系の従業員の報酬において公平性・透明性を確保するため、C&Bに機械学習型人工知能Beqom(※英語のみ)を導入しています。Beqomを使用する以前は、世界的な大企業でもエクセルやスプレッドシートを使って計算や管理をするのが普通でした。このAIはHRISに直接搭載でき、個人と会社の業績をリンクさせてHRやC&Bの指数を自動的に可視化します。カスタマイズの自由度が高いので、会社の独自性を活かしつつ、論理的でフェアな給与体系を構築することができます。
日本での有用性は?
C&Bはローカル色が強いため、米国で効果的な施策が日本でそのまま通用するとは限りません。例えば、アメリカではストックオプションやパフォーマンスボーナスによる昇給が一般的ですが、日本の企業や日本人は高めの基本給を好み、変動型ボーナスよりも固定賞与をよしとする傾向があります。BeqomのようなC&B用のAIは、指数評価には役立つかもしれませんが、報酬に関する問題を解決できる有効なソリューションを生み出すには、日本の転職市場の特色を踏まえてローカライズする必要がありそうです。
5. L&D、教育研修に役立つAI
20年前なら人間の講師が教えていたテクニカルな研修課題や一般的なテーマは、今ではEラーニングシステムを使って行うことができます。ほとんどの大企業がこうしたシステムを導入済みなのではないでしょうか?AIの活用方法はたくさんあり、チャットボットによるリマインダーの送信、コンテンツ・フィルターの作成、特定の社員グループのナレッジギャップの特定や、ギャップに応じた履修コースの推奨などを行うこともできます。
マリオット社ではゲーミフィケーション(ゲーム化)を取り入れ、(※英語のみ)リーダー候補の社員がホテルを経営して利益を出しながら従業員の満足度を維持する、というAIドリブンのビジネスゲームをタレントマネジメントに利用しています。
日本での有用性は?
研修の自動化は大きな可能性を秘めた分野です。しかし、企業文化の醸成という面から考えた時に、人間の関与をどこまで割愛していいのかを十分に検討すべきでしょう。システムはウィークポイントの見極めには役立ちますが、企業文化や人間関係を育むことに関してはEラーニングプラットホームを超えた取り組みが欠かせないと考えられます。
今回、ここでご紹介したのは世界のAI×HRの先行事例のほんの一部です。こうしている間にも、世界中のベンチャー企業が我先にと様々なHRタスクの自動化に取り組んでいるに違いありません。日本の転職市場はユニークな点もあるので、海外事例をそのまま採用できない場合もあるかもしれませんが、引き続きHR×AIから目が離せません。
人事業務における人工知能の活用についてもっと詳しい情報をお探しの方は、是非ご連絡ください。