外資系金融とMBA
外資系金融、と聞くとMBAをイメージする方は多いと思います。実際にMBA卒業生が相当数勤務しているのは事実。
ですがその歴史は比較的浅く、日本国内でのMBA採用が本格化したのは、1980年代。本記事では時代を追って、日本の金融業界におけるMBAの位置づけや採用ニーズ、卒業生のキャリアパスの変遷などを見てみたいと思います。
まずは金融業界における日本人MBAが増えた背景を見ていきたいと思います。
銀行各社による企業派遣MBA
邦銀は1980年代の一時期、時価総額ベースで世界10大銀行のうち 7行を占めるなど飛ぶ鳥を落とす勢いでした。
1980年代の銀行各社におけるキーワードは「国際化」。海外拠点の開設、そして海外金融機関の買収が積極的に行われました。そんな中、将来の国際ビジネスの経営を担う中枢人材の育成戦略として、企業派遣によるMBAが推進されました。
MBAが奨励された理由
- 2年間、専門的経営知識を世界中から集まったクラスメートと学び、授業が英語で行われる。
- 在学中のネットワークが、卒業後のビジネスに繋がるケースを期待。
- 経営企画など、将来の幹部候補の早期選抜。
- 全国の支店から厳しい選抜試験を勝ち抜く必要があり、行内若手の活性化。
MBA指定校の存在
- 邦銀各行で独自の選抜基準及び派遣先がありましたが、基本は米国内におけるMBAプログラム。
- 共通のおおまかな基準は当時の米国内におけるトップ20にランクされたプログラム。
- 特にファイナンスのクラスに定評のある、シカゴ大学、コロンビア大学及びペンシルパニア大学(ウォートン)の各大学。
- 上記は邦銀からの企業派遣者の指定枠が一定数あるといわれたほど、群を抜いて目立っていました。
1980年代米国におけるMBA採用動向
さてこの頃、米国内の外資系投資銀行はMBAを積極的に採用していました。
投資銀行部門(IBD):新卒として入社、2年間アナリストとして勤務後にMBAへ。卒業後に外資系投資銀行にアソシエイトとして入社が黄金のパターン。(アナリスト/アソシエイトって何、という方はこちらをどうぞ→外資系金融の業界用語)
セールス&トレーディング部門:MBA卒業生のアソシエイト採用が主流。特に機関投資家ビジネスが主流の債券部門における採用が多かった。
外資系投資銀行におけるMBA採用は、ソロモンブラザースについて書かれた『ライアーズ・ポーカー』(マイケル・ルイス著)が詳しい。1987年入社組では、ニューヨーク新人研修の参加中80名がMBAだったといいます(他に博士課程修了者、日本オフィスからの参加者もいた)。MBA=一流金融キャリアへの切符、というイメージが確立していったのはこの頃でしょう。
1980年代、外資系投資銀行が日本市場に本格進出
好景気にわく1980年代の日本は外資系投資銀行各社にとって、大きなビジネスチャンスでした。
本格的に日本市場へ進出する上での障壁は、人材確保の手段。
その流れの中で日本国内の金融ビジネス経験があり、米国流ビジネスの知識がある企業派遣MBAは魅力的な人材でした。
邦銀及び大手日系証券から企業派遣されたMBAの相当数が、この時期に外資系投資銀行へ移籍しました。
1990年代以降の日本人MBAトレンド
1990年代以降は日本でも外資系金融=MBAという等式が市民権を獲得しました。
従来からの企業派遣に加え、会社を辞めて個人でMBAを目指す私費留学生が大きく増加。卒業生は外資系金融へ流入しました。
一方で、企業派遣でMBAを取得した社員の退職数が表面化します。
年功序列型の人事制度が基本である国内金融機関が、MBAホルダーを充分に活用できないケースが多く散見されました。
2000年代以降の日本人MBAトレンド
人材流出に悩む各社で、企業派遣によるMBAのメリットを疑問視する声が高まりました。そこへ国内金融機関の業績が悪化;高い費用の企業派遣を控える動きが広がりました。
米国内における外資系投資銀行のMBA採用の風向きも変わってきました。人件費の高いMBAアソシエイト採用は減少、学部からアナリストで新卒採用した人材を育成する方向が主流となったのです。
日本国内においても外資系投資銀行が新卒採用を積極化、MBAアソシエイト採用が減少に転じます。
MBA進学先の多角化
さて、MBAの留学先にも変化が生まれます。米国のMBAプログラムに加えて、欧州のトップMBAへ進学するケースが大幅に増加したのです。欧州のトップMBAでは特にロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)とINSEADが群を抜いています。
米国内の大学でも変化が表れました。特にファイナンスのクラスに定評のある、シカゴ大学、コロンビア大学及びペンシルパニア大学(ウォートン)に加えて、マーケティングに定評のあるノースウエスタン大学への進学者数増加が目立つようになりました。
現在の外資系金融におけるMBAの需要
では、最近の採用需要はどのように変化しているのでしょうか?
リーマンショック以降、外資系金融におけるMBAの需要は一気に減少しました(但し採用全体が抑制された為、影響はMBAに限定された現象ではありませんでしたが)。
現在もMBAに対する根強い需要はありますが、業務により様相が大きく異なります。分野別に見ていきます。
プライベートエクイティー
MBAを保有する割合が最も多いのが、プライベートエクイティーです。
PEは外資系投資銀行もしくは外資系戦略コンサルタント出身者が、次のステップとして参画する業界ですが、他業務と比較して、MBA保持者の割合が突出して目立っています。
投資先企業の経営に密接に関わる職種であり、MBA が役に立つと言えます。
ヘッジファンド
相当数のMBAホルダーがいますが、出身バックグラウンドにより異なります。
ヘッジファンドは原則新卒採用が無く、中途採用による即戦力補充が基本。
IBD出身者のMBA保有率は高く、エクイティリサーチ出身者のMBA保有率が低い傾向有り。
外資系投資銀行の投資銀行部門(IBD)
プライベートエクイティー に次いでMBA保有率が高い。
MBA で学ぶコーポレートファイナンスの知識ならびに卒業生ネットワークが重宝されています。
ただし新卒で外資系投資銀行に入社したケースでは、MBA留学に行かずにそのままキャリアを積むケースが主流となっています。
外資系投資銀行のセールス&トレーディング部門
かってはMBA卒業生のアソシエイト採用が主流だった時代があり、特に機関投資家ビジネスが主流の債券部門における採用が多かった。
現在でも債券部門におけるMBA保有者は、株式部門と比べて多い傾向がありますが、全体としてMBAが採用の決め手になるケースは少ない。
個人の業績(P/L)が明確に出る職種であり、キャリアで最重要視されるのは「いくら数字が作れるか」に尽きます。
新卒からの叩き上げ、もしくはMBAの有無に関わらず、他社から数字を持ってこれる人材かどうかが最重要視されます。
外資系投資銀行のエクイティリサーチ部門
MBA保有者は一定数いるが、割合としては少ない。
外資系銀行
プロジェクトファイナンスなど特定業務におけるMBA保有者が目立つが、全体としての割合は少ない。
MBA は外資系金融キャリアの役に立つか?
一般論として長期的なキャリア形成という観点からは、イエスです 。
MBAの主なメリットは ①専門的経営知識の取得 ②実践的な英語力の向上に貢献 ③卒業後のネットワーク等。いずれも採用において重要視されるスキルです。
また、他業界から金融にチャレンジしたいプロフェッショナルのキャリアチェンジには有効です。例えば、事業法人のエンジニアが外資系投資銀行の投資銀行部門(IBD)が目指すなど。
さて、外資系金融におけるMBAのメリットは、業種により大きく異なります。
- プライベートエクイティにおけるMBAの評価は総じて高く、企業派遣の制度を有するファンドも有。
- ヘッジファンドではMBAが採用の決め手になるケースは稀。
- 外資系投資銀行の投資銀行部門(IBD) は、MBAアソシエイト採用枠有り。
- 外資系投資銀行のセールス&トレーディング部門は、MBAアソシエイト採用は少ない。
- 外資系投資銀行のエクイティリサーチ部門も、MBAアソシエイト採用は少ない。
- 外資系銀行ではMBAが採用の決め手になるケースは稀(プロジェクトファイナンス、レバレッジファイナンスなど部署はMBA保有者が多い)
外資系金融とMBAの関係は業種に加えて、プロフェッショナル各位のキャリアステージによっても大きく異なります。
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