ハイブリッド勤務の従業員ウェルビーイング・ケア
出社と在宅を組み合わせたハイブリッドワークが広がっています。多様なライフスタイルを応援できるのが利点ですが、従業員ウェルビーイングの観点からは課題もあります。
ハイブリッドワーク普及の背景には働き手の要望があります。Morgan McKinleyが行った調査では、世界の働き手の57%が雇用主に期待することとして柔軟な勤務制度を挙げています。
ですがハイブリッドワークには社員が孤独やストレスを感じやすい、マネージャーが部下の仕事を管理しづらいといった在宅勤務ならではの問題点に加え、仕事とプライベートの切り替えに悩む社員が多いこともわかってきました。
このため、ハイブリッドワークの実施にあたっては社員のウェルビーイングに対する配慮が必要となります。
従業員ウェルビーイング(employee wellbeing)とは、従業員が経済的にも社会的・精神的にも満たされている状態のこと。ハッピーな社員は生産性や創造性も高まり、会社への貢献度も高いと言われています。
ハイブリッドワークをする社員を上手にケアし、心身共に満ち足りた状態で能力を発揮してもらうためにはどうすればいいのでしょうか。Morgan McKinleyが考える7つのポイントをご紹介します。
- コミュニケーションは全ての基本
- 「自社に合った」ハイブリッド勤務制度の検討
- ウェルビーイング・プログラムの拡充
- 休憩をしっかりとってもらう
- チームの交流を保つ工夫を
- 職務内容の見直し
- ハイブリッド勤務のパフォーマンスマネジメント
1.コミュニケーションは全ての基本
在宅勤務は孤独感や同僚とのつながりの喪失感を生むことがあります。この状態は当然ながら精神衛生上よくありません。
つながりを感じてもらうための基礎は何といってもコミュニケーションです。「調子はどう?」「心配事はある?」といった簡単な声かけを行うだけで社員のウェルビーイングは全く変わってきます。短時間でもいいので、チームが顔を合わせるバーチャルミーティングを毎日行うのも効果的です。
多様なコミュニケーション手段を用意しておくことも大切です。一週間のまとめやアップデートはEメール、顔を見て聞いてほしいメッセージはイントラネットの動画、簡単・カジュアルなやりとりにはSlackやGoogle Chat、Teamsというように使い分けるといいでしょう。
様々なツールを活用し、継続的にコミュニケーションを取り続けることでつながりが育まれていきます。
つながりの喪失はチームワークやパフォーマンスにも悪影響を与えます。仕事量が多すぎないか、悩んでいることはないか。顔を見る機会が減った分、マメに確認し、問題の深刻化を未然に防ぎましょう。
また、社員や部下から「相談したい」とアプローチされた場合は親身になって耳を傾けましょう。冷静に辛抱強く寄り添い、一緒に解決策を探す姿勢が大切です。
2.「自社に合った」ハイブリッド勤務制度の検討
ひと口にハイブリッド勤務といってもその実施方法は様々です。チームワークや会社文化を犠牲にすることなく、社員が望むライフスタイルをサポートできる仕組みとは?社員も会社も納得できる方法を世界中の企業が模索しています。
自社に合ったハイブリッド勤務の制度作りにおいては次のような点を検討すべきでしょう。
- 社員の要望・ニーズ(アンケートやラウンドテーブルを実施しても◎)
- 全社員に認めるのか、部署やチームを限定するのか
- 在宅勤務日の勤務時間やコアタイム(働きすぎ防止のため。ニーズに合わせて選べるよう、複数設定しても)
- 出社日数や全員出社日を設けるのか
- 勤務場所は自宅のみか、自宅以外も許可するのか
- 経費やインターネット利用、データ保護のルール
- ハイブリッド勤務を希望する場合の社内手続き
- コンプレストウィークと併用する場合のルール
- パートタイム勤務の場合のルール
その他、雇用契約に明記するのか、アドホックに運用できるようにしておくのか?といった点も整理すべきでしょう。
制度が固まったら社内ルールを周知します。ここで会社のルールや期待値をしっかり伝え、納得してもらうことが社員のウェルビーイングにつながります。
最後に、社員が在宅勤務時もきちんとパフォーマンスを出せるような環境を整えます。そのためのサポートとしては次のような例があります。
- 快適に働けるホームオフィスのセットアップ支援、在宅勤務時の健康管理に関するアドバイスの提供
- デジタル・ウェルビーイング研修の実施(仕事のしすぎによるバーンアウトを防ぐ習慣の奨励など)
- 仕事に集中するためのアドバイスの提供(仕事専用スペースの確保、ノイズキャンセル機能付きのヘッドフォンの利用など)
- 子育てや介護をしながら勤務する従業員の支援(保育補助やフレックス勤務など)
- 在宅勤務で苦労していることを共有できる場の確保、抱えている課題の解決を支援する仕組みの導入
該当する部署のマネージャーがハイブリッド勤務をする部下をしっかり監督できるようにサポートしてあげることも必要でしょう。リモートでのコミュニケーションの取り方やパフォーマンスマネジメント(以下詳述)、コラボレーションを推進するポイントなどを学ぶ研修をアレンジするなど。
また、ハイブリッドを利用できない従業員が不公平感を感じないような工夫も必要です。
3. ウェルビーイング・プログラムの拡充
チームのウェルビーイングに配慮するのは上司の務めですが、悩みを上司以外に相談したいこともあるでしょう。また、マネージャーの負担を和らげるため、会社全体のウェルビーイング・プログラムを見直し、ハイブリッド勤務の課題に対応できるものになっているかどうかを検討すべきでしょう。
- 人事の相談窓口の開設
従業員ウェルビーイングの確保は人事の重要課題です。プライベートの悩みであっても、仕事や従業員ウェルビーングに影響するようなことなら秘密厳守でいつでも人事に相談できることを社内にアピールしましょう。
- 従業員支援プログラム(EAP)の導入
従業員支援プログラム(EAP)は専門家によるカウンセリングなどを受けられる制度で、厚生労働省が定めるメンタルヘルス対策の一つです。健康や仕事のパフォーマンスに影響する事柄を社外の専門家に相談できるという安心感があります。
このような仕組みは外注することもできるので、未実施の企業は検討してみてはいかがでしょうか。
4. 休憩をしっかりとってもらう
出社して仕事をする場合、会社⇔家という場所の移動があるためオンとオフの切り替えが比較的容易です。家はプライベートな場所、自分の時間、と割り切ることもできます。
一方在宅勤務では物理的な場所でスイッチを切り替えることが難しいため、ずっとオンのままでバーンアウトしてしまったり、オンとオフが曖昧になって精神的に疲労してしまうケースが増えています。すぐにチャットに反応しないとサボってると思われるかもしれないと感じることがストレスになっている人もいるようです。
このためテレワークをしている社員にも、毎日適切な休憩をはさむよう促すことが大切です。在宅の社員に一日中働き通すことを強要してはいけません。オフィスでもずっとパソコンに張り付いているわけではないですし、そもそも休憩なしで集中力を持続させることは不可能です。
これはウェルビーイングだけでなく従業員エンゲージメントの観点からも言えることで、どちらも生産性向上につながるので積極的に進めたいところです。
5. チームの交流を保つ工夫を
在宅勤務の日数が多いほど社員同士の関わりが希薄になるのはある程度仕方のないことです。仕事の後に飲みに行ったり、デスクや廊下、給湯室で立ち話をしたりといったコミュニケーションも減ります。
こうした機会を提供するため、会社が意識的に社内コミュニケーションの場を設けるといいでしょう。
例えばZOOMやGoogle Hangoutでバーチャルブレイクをお膳立てしてみましょう。各自コーヒーやお茶を淹れて、仕事とは関係のない話をするようにします。在宅とオフィスの社員が繋がれる上、在宅の社員はとりづらかった休憩がとれて喜ばれるはずです。
ただしオンライン交流のやりすぎは禁物です。ウェブ会議が多すぎてZOOM疲れに陥っている社員は少なくありません。カメラをオフにしてよいことにしたり、ウェブ会議以外の手段も活用したりして変化をつけるのがコツです。
6. 職務内容の見直し
ここまで職場環境や勤務制度のことを中心に書いてきましたが、業務そのものの見直しが効果的な場合もあります。
仕事量が多すぎて悩んでいる従業員がいるのなら、勤務環境を整えたりつながりを強化してエンゲージメントを高めることも大切ですが、場合によっては仕事の分担を変えたり、重要度の低いタスクを削ることがより根本的な解決策になるかもしれません。気がつかなかった無駄を削減したり、担当業務以外でも役立つスキルや知識を持っている社員が活躍の場を広げるチャンスになるでしょう。
仕事量をしっかり管理し、チームワークを促すことで部下がウェルビーイングを保ちつつ目標を達成できるようになります。
7. ハイブリッド勤務のパフォーマンスマネジメント
ハイブリッド勤務のパフォーマンスマネジメントは完全出社型とは異なるアプローチが求められます。毎日仕事の様子を観察できない従業員のパフォーマンスを公正に評価するにはアクティビティよりも成果に焦点を当てる方が有効です。会社や部署の目標を踏まえ、社員と共に明確で測定可能な目標(SMART目標)を設定しましょう。
目標を設定したらコミュニケーションやフォローが大切です。一対一で、またチームミーティングで、ビデオ会議やチャット、プロジェクトマネジメントツールなどをフル活用してそれぞれが目標を理解し、目標に向かって進めているかをチェックします。
同時にフィードバック・ループを意識しましょう。定期的・継続的なフィードバックを促す便利な人事システムやツールもあります。進捗や課題を可視化できれば、社員の振り返りや自己評価を習慣づけ、自発的な能力開発を促すことができます。
チームの連携や一体感を高めるためには成果を皆の前で褒めるのも効果的です。チームミーティングの場で意識的に褒めたり、チームメンバー同士(P2P)の表彰制度を設けるというやり方もあります。チーム全体の成果であればメンバー全員で祝うのもいいでしょう。
最後に部下が能力を発揮するためのサポートを提供できているかを振り返りましょう。仕事の妨げとなっている要因があれば取り除き、研修やコミュニケーション/コラボレーションツールの導入、在宅勤務を助ける機器の提供といったサポート方法があります。
社員のウェルビーイングのために
ハイブリッドワークが出社してほしい会社と在宅勤務をしたい社員の妥協点ではなく、完全在宅よりも完全出社よりも優れた勤務制度になるためには従業員ウェルビーイングへの配慮が欠かせません。
上記のポイントに限らず、是非貴社に合った方法を模索してみてください。