通る採用稟議書を書くコツ
採用をしたいのに承認が下りない…採用担当者や中間管理職なら経営陣と現場の板挟みになった苦い経験があるのではないでしょうか。
人員が足りない状態が続くと社員のバーンアウトを招き、チームの士気が低下します。プロジェクトの成否や売上、顧客の信用にも関わるでしょう。
採用の承認を得るためには経営陣の懸念事項を理解し、現場の窮状をデータを使って客観的に示した上で具体的な解決策を示すことが大切です。この記事では効果的な採用稟議書の書き方を解説します。
採用稟議書が通らない理由:上層部の懸念事項
採用稟議書の書き方の前に、まず経営陣や上層部がなぜ採用を安易に認めないのかを確認しておきます。採用したいと申し出られた時の経営陣の思考プロセスを追ってみましょう。
コストがかかる
人を一人雇用するということは給料や社会保険料、福利厚生費を毎月支払い、パソコンやIT機器などの設備、オフィススペースを確保し、初期投資として採用費用、教育研修費用等を引き受けるということです。
優れた経営者ほど無駄な出費に敏感です。採用に必然性がなければ承認できないのは当然でしょう。
採用の明確なメリットが見えない
リターンに大きく関わるのがメリットです。コストを大きく上回るメリットがあれば経営陣は動きます。一方、コストが低くてもメリットがない(示せていない)採用はOKが出る可能性は低いです。メリットとは例えば
- 売上や業績にどのように貢献するのか
- 利益率や業務効率が改善するのか
- 顧客満足度やカスタマーサービスが改善するのか
といったことです。データを使って理想の社員が入社した場合に期待できる成果を数値化・可視化できていますか?現場が困っているから採用する、人が辞めたから採用する、というだけでは説得力のある採用稟議書とは言えません。
今採用しなければいけないのか
採用の必要があることはわかったけれどなぜこのタイミングで採用しなければいけないのかが見えない、ということもあります。会社にも事情があります。全社を挙げて経費節減の号令をかけているのに示しが付かない、同じ部署で採用したばかりなのに、新卒が入るまで待てないのか、などなど。
例えば成長期なら、ここぞというタイミングで人員を投入しなければビジネスの勢いを殺いでしまうかもしれません。また安定期なら、人を増やすことで次の一手を狙う余裕が生まれるでしょう。苦しい時も、既存社員の負担が限界になる前に採用しなければ離職者が増えてしまいます。採用を会社の目標や戦略のストーリーに合わせて語ると効果的です。
派遣ではだめなのか
一般に正社員の採用と比べて派遣社員を登用した方が費用を安く抑えられることが多いです。このため、できるなら人材派遣で済ませたいと考える経営者は少なくありません。
ですが正社員と派遣社員では採用の狙いが違います。成長期や繁忙期を乗り切るための一次的なニーズならば業務委託や派遣社員、契約社員などの有期雇用を検討すべきでしょう。
一方、派遣社員は業務範囲を超えた仕事はできません。柔軟に立ち回ってほしいようなポジションや、単一業務に縛られず新たなアイディアや戦略を練ってほしいような場合は正社員が相応しいと言えます。
増員を申請する際にはこのような点も検討すべきです。
アウトソース・業務委託ではだめなのか
業務によってはアウトソースや業務委託の方がコスト効率がよい場合があります。アウトソースした場合と正社員を採用した場合の固定費・変動費を比較しましたか?
単純な費用見積もりでは派遣社員の方が安いけれど、正社員が望ましいと考えられる場合はその理由をきちんと示すべきです。例えば、正社員の方が(一般的に)帰属意識が高いため中長期的な視点で会社のことを考えてくれる、チームや関係部署と信頼関係が長続きするなど、お金では測れない利点があります。
具体的な候補者はいるなら考えてもよい
採用稟議書を提出する段階では候補者探しまで進んでいないことも多いと思いますが、「既にタレントプールに候補者が何名かいます」と言うことができれば経営陣を動かせる可能性があります。
日頃から優秀な人材にアプローチをかけ、パッシブ・キャンディデートとのパイプを太くしておくと、このような時に役に立ちます。人材紹介会社を利用して転職市場の動向や求めるスキルの需給バランスに関する情報を添え、見通しを示すのもいいでしょう。社員のスキルアップやアウトソースなどの代替案を検証するのも有効です。
採用稟議書の作成準備
採用稟議書やプレゼンを書き始める前にまずは情報収集をしましょう。部署やビジネスの現状、具体的なニーズ、理想的な採用のタイミングについてヒアリングをし、データを集めます。採用をしなかった場合の影響やプランBの検討も必要です。
1. 採用ニーズの調査:
人手が必要だと思ったら、まずはニーズを詳しく調査しましょう。現在のチームの能力、望ましいアウトプットを出すために必要なチームの能力をまとめ、どこにギャップがあるのかを考えます。ボトルネックはどこにあるのでしょうか?
能力のギャップを特定するだけでなく、仕事量を定量化してみましょう。従業員の残業時間や各タスクにかかっている時間、プロジェクトならばバックログなどをを調べます。業務フローに無駄がないかの検証も必要です。これを理想的な業務フロー、タスク処理時間・処理量、各従業員の勤務時間等を照らし合わせて分析します。定量化することで、現在のチームの負担がどの程度なのか、どのようなリソースが足りていないのかをわかりやすく示すことができます。
また足りないスキルを社外に求める前に、社内で探してみること。部署間の連携を深めつつ、採用にかかる時間と費用を節約することができます。
2. 必要なポジション/スキルの洗い出し:
ギャップを特定したら、それを埋めるためのポジションを定義してみましょう。ジョブタイトルだけでなく、具体的な職務内容や求められるスキル・経験などを細かく書き出します。
説得力のある採用稟議書のためにはここでもう一歩突っ込むこと。その人物を採用することでどのように部署や会社の目標達成につながるのかという採用のインパクトを示すのです。戦略的なメリットのある採用であることをアピールできます。
3. データ集め:
経営陣には数字が響きます。まずは現状を示すデータを揃えましょう。部署のKPIが役に立ちます。残業時間/残業代などの人事データも有効です。
次に増員した場合のパフォーマンスを予測します。KPIがどの程度改善すると考えられますか?例えば売上が20%増加する、プロジェクトの納期を30%短縮できるなど。このような数字を出すことで、採用のメリットが具体的に浮かび上がります。
数字にはしにくいですが、残業が減ることによる従業員ウェルビーングの向上などのメリットも整理しておきましょう。
4. 切り出すタイミングを見極める:
採用稟議書を提出するタイミングの見極めも重要です。狙えるようであれば、会社が成長戦略を見直しているタイミングや予算編成を行っているタイミングなどが好機です。
新市場参入計画や顧客需要の伸びなど、ビジネスの課題に敏感になりましょう。会社の経営目標や戦略にマッチした採用提案をタイムリーに行えば、承認を得られる可能性が高まります。
5. 代替案の検討:
正社員の採用が難しい場合の次善策も考えておきましょう。バックアップまで検討したことがわかれば、人手不足が解決すべき真剣な課題であることが伝わります。以下のような選択肢が考えられます:
- 派遣社員: 派遣社員ならば正社員のようにオーバーヘッドコストをかけることなく、仕事量の増加に対応できます。
- 契約社員:正社員への登用も視野に入れてオファーすれば優秀な人材を獲得できる可能性があります。
- 業務委託:特にITや技術系の分野ではフリーランスで活躍する人材が増えています。
- アウトソース:非中核業務ならば外部のプロバイダーに委託するという選択肢もあります。
- サービスパートナー:特定のタスクならば、サービスプロバイダ―と連携したり、自動化することで人手不足を解消できるかもしれません。
- タスクの自動化、デジタル化
優れたビジネス計画はプランBまで提示するものです。目下の課題は人手不足を解消することであって、正社員の採用はその手段に過ぎません。正社員採用にこだわり過ぎず、柔軟な姿勢で問題解決に臨みましょう。
採用稟議書のテンプレート
ここまで下準備ができたら、いよいよ採用稟議書やプレゼンの作成にとりかかりましょう。基本的な構成をご紹介します。
1. 採用の背景(課題提起)
課題提起では、なぜ採用をする必要があるのかという理由を述べます。人員不足によりチームが直面している課題をまとめ、数字やデータを用いて現在の仕事量を定量的に示しましょう。検討すべき重要なポイントは以下の通りです:
- 過度な残業、オーバーワーク
- パフォーマンスの低下
- チームのモチベーションの低下
- スキルの不足
- 顧客への影響
2. 採用の要件(解決策の提示)
次に、上記の課題に対する解決策(どのようなポジションで何人採用すればよいのか)を提示します。以下のような情報を具体的に書き込みましょう。
- 所属部署・チーム、ポジション、採用人数
- 詳しい職務内容、必要なスキルや知識
- 採用によって得られるインパクト、メリット
- 雇用形態:正社員/派遣/紹介予定派遣など
3. 採用の手段(解決策の実行方法)
採用の具体的な段取りを示します。
- 他部署から人材を回す社内異動の可否
- 自社サイトや転職サイトなどでの直接採用
- 人材紹介会社やサーチ会社、派遣会社の利用の有無
- 採用にかかる期間
- プランB
4. 採用にかかる費用(想定されるコスト)
採用にかかるコストをまとめます。具体的には次のような点をカバーしましょう。
- 給与、福利厚生費、人材紹介料(正社員の場合)
- 人材紹介料、派遣料金(派遣の場合)
- 教育研修などのオンボーディング費用
- 転職サイトなどへのポスティング費用
採用稟議書ができたらいよいよ提出です。メールで送付するよりも対面でPRする方が効果的なので、可能なら打ち合わせを申し込みましょう。採用が重要懸案事項であることが伝わる上、異議にその場で反論することができます。意思決定者に合わせてメリットを強調することを忘れずに。
会議には一枚紙の採用稟議書(またはそのサマリー)と想定されるジョブディスクリプションを持参し、ニーズを裏付けるデータがあればそれも準備しておきます。
会議の場では採用の費用対効果を客観的に示すこと。また採用にこだわり過ぎず、現状の組織が抱えている課題を解決したいという姿勢で臨みましょう。
会議の後のフォローアップは必須です。会議で上がった質問や反論に対する回答や情報・データを提示し、再度会議を設定する必要があるかを確認します。
晴れて承認が得られたら、採用稟議書で示した計画に従って採用を進めましょう!